ハチミツ
【今日のハチミツ、あしたの私 寺地はるな】
ーどんな状況でも生きなきゃいけない。蜂も、人間も。
可愛らしくて暖かい、表紙と字に惹かれて手にとった一冊。
作中に書かれている言葉もどこか暖かくて、柔らかい。
自然豊かな描写で、読んでいると草木や花の香りが感じられそうになるくらいに。
仕事や結婚、過去に息詰まりを感じながら暮らす"碧(みどり)"が、実家の仕事を継ぐと決めた同棲中の彼についていくことから始まるお話。
そこからなんやかんやあって、養蜂の仕事をする"黒江"という男と出会い、ハチミツを通してお話が進んでいくの。
お話を通して感じたことは大きく二つ。
まずは「家族」についてかしら。
碧の家族、養蜂場を営む黒江の家族、同棲相手の安西の家族、認知症の父がいる三好さん、スナックあざみを経営するあざみさん....
どの家族も形としては「家族」
なんだけども、どこか複雑で繊細。
喋りたいけど何を喋ったらいいかわからない食卓
夜に玄関から出ていく認知症の父を見放そうかと思う多忙な仕事終わり
寄り添うことでわかる男女間の縺れ
言葉にできない「愛している」という気持ち
私自身の家族との関係性なども思い出してしまって、涙をグッと堪えながら読む部分も実はあったのよ🤫
碧やその他の登場人物たちの「家族」への想いも重なって...
大きく二つ目は「居場所」
碧が安西についてきた挙句、そこであっけなく帰る場所を失うっていうネタバレなんだけども、(それはもうえーーって感じでどうするのーーって思った)
アパートを探してくれたり、ごはんを食べさせてくれたり、
その町で出会う人たちの温かさを感じました...
それもある。というか、それだけではない。
碧自身がそこにいると決めたこと、養蜂場で勉強すると決めたこと、
あざみさんの店舗の改修やメニュー作成の手伝いをすると決めたこと、
ずっとここにいると決めたこと...
人の温かさや出会った運はそれもそうだと思うけども、
碧自身が決めて、碧自身が居場所を切り開いていく強さが単純にすごいと思ったの。
「自分の居場所があらかじめある人なんていないんだよ。自分でつくっていかないと」
この言葉、今の私にものすごく響きました。
ありがとう。
蜂蜜のように、舌に溶け込んでいくような温かいお話。
あ、あともう一つ。
作中に出てくるごはんたちがどれも美味しい...
いや、食べたわけではないけど、絶対に美味しいの。
はい、おまじない。
覚えて帰ること。
『蜂蜜をもうひと匙足せば、あなたの明日はきっと今日より良くなる。』