ワタシノアタマノナカ

大人の読書感想文

砂漠の青がとける夜

【砂漠の青がとける夜  中村理聖】

 

 

ー言葉の儚さと、美しさを嚙み締めながら...

 

言葉の本当の意味を、考えたことはあるかい?

と、問いかけられたような気持ち。

 

「美味しい」「甘い」「痛い」「いただきます」「愛してる」

作中にもあるこれらの言葉を、自分は一体どんな気持ちで放っているのだろう。

 

あ、本のあらすじを忘れていたわ。

東京で飲食店の記事を作る編集の仕事をしていた美月が、父親のお店を継いだ姉・菜々子の誘いで京都のカフェを手伝うことになるの。

そこで度々お店に来てはコーヒーを飲んで帰る少年と出会って...とまぁこのような。

 

この少年、中学生・準が見ている世界。

”わかる”なんて陳腐な言葉で片づけるのは情けないような気もするけれど、ほんのちょっとばかり”わかる”気がしたの。

 

その人から違う物や人が見えるとか、それらから言葉が放たれているとか、

そういうことがわかるんじゃないんだけども、

相手のオーラとか、色とかって、小さいころから感じることが多いのなんの。

だからその、準が見ている世界とは違っても、なんとなく感じる部分はあったなぁ。

 

それと、『砂漠の青がとける夜』

結構考えて読んではいたもの、散々悩み散らかしていて。

最後の最後を読んでやっとわかった。気がする。

 

「砂漠」「青」「溶ける」「夜」

繋がりがありそうでなさそうな、言葉たちが一気に腑に落ちた。気がする。

 

んもう、自分でも何が言いたいのかわからなくなっちゃったわ~~

 

美月も考えていたように、

「この”何となく”な感情を、”確かな言葉”になるようにすると、

 自分の言葉が穏やかに輪郭を失っていくように...」

 

本当に今それなの。

 

この今の気持ちを、そっくりそのまま言葉にできたらどんなに良いだろうか。

特に食事の時にそんなことをよく考えます。

結局いつも答えは出ず、最終奥義、ボディーランゲージを使用している私です。

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鳴らせ、自分のテーマソングを

【心配しないで、モンスター  平安寿子

 

ー9つの音楽に乗って、少しだけ前進してみない?

 

宇宙人...モンスター...

この作品は一体何が書かれているんでしょ...

と不思議に思って手にとった一冊。

 

まずは、9つのお話で構成されています。

それぞれの題名に好奇心が止まらないの。

 

 丘の上の馬鹿になりなさい

 わけあって、舟唄

 黒魔女の女とお呼び

 夢路はどこにあるの

 夕星に歌う

 UFOに乗ってモンスターが行くぞ

 わたしだって、いつかはプリキュア

 真夏の果実はかじりかけ

 心配しないでベイビー、やっていけるから

 

....素敵すぎない????

 

まるで9人の生活をこっそり覗き見している気分🫣

一人ひとりの苦悩や葛藤があって、それをちょっとだけ乗り越えていく。

それだけじゃないの。

そんな自分でもいいじゃないかハハッって思わせてくれる秘密があるの。

 

一番心にぶっ刺さったのは、「UFOに乗ってモンスターが行くぞ」

女装が好きな男の子のお話で、そんな自分と世間からの目を乗り越えるお話。

作中にピンク・レディーさんのUFOの歌詞が出てくるんだけども、

読んでびっくり。

確かに、そういう意味も込められていたのかと気づいた時にはもう鳥肌🐓

主人公への共感の気持ちもあり、応援したくなるような、そんなお話。

 

ピンク・レディさん含め、9つのお話それぞれにそれぞれの「音楽」が紐づけられているってのが最高に心惹かれた部分でもあって。

 

J-pop、洋楽、クラシック、ロック、演歌からアニソンまで...

音楽がお話を盛り上げてくれるのよ、これが👏

 

いきなりおばさんの女心の話から始まるので、

(これ読む本間違えたかな...)と内心思っていたのは内緒ですが、

ところがどっこい、読んでみると登場する9人には連続性があって、

めちゃくちゃ引き込まれるし、めちゃくちゃ面白い。

 

すごくパワーを貰ったZE!!というよりも、

あ、こんな自分でもまぁいっかな。

って。

 

私のテーマソングってなんだろうなぁ🤔

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魔法の言葉はいらないよ

【声の在りか  寺地はるな】

 

 

ー"言葉を持たなくちゃ"って、わかってはいても

 

これ、すggggggggggっごく解るの。

今日はそんな自分の言葉を閉じ込めた主人公・希和のお話....

 

昨日に引き続き、寺地はるなさんの作品。

これもまた題名と表紙の柔らかさから手にとった一冊。

 

新しくできた『アフタースクール鐘』で希和が働くことに。

そこは根も葉もない噂が立っていたり、小学四年生の息子・晴基が知らぬうちに通っていたり。

経営者の要や子供たちとの関わりの中で、正しいとは、自分の気持ちとは、

希和の心の声を通して奮闘するお話。

 

大人になるにつれて、言葉のコミュニケーションって難しくなりますよね。

なんだかこの世の全てを知ったかのような言い方で大変失礼したと承知してはいるものの、事実そう思うことが年々多くなる年頃です。

 

しかもSNSなんかもどんどん成長していくでしょ...

便利は便利、けどその中に虚しさを感じる自分もいたりして。

 

この作品はそれらの言葉のやりとりを、子供から学ぶこともあるなぁと読み終えてからしみじみ感じていました。

 

原因や理論まで素直に言葉にしなくてはいけないこと

逆に言葉にしないほうが良いこと

 

経営者・要さんから学ぶことは本当に多い、希和だけでなく私も。

 

”空気を読む”とか、”気を遣う”とか、年を重ねるごとにいらん荷物も一緒に増える。

SNSも含めたりすると、コミュニケーションって時々訳がわからなくなるの。(私だけかしら)

 

そんな中でも、「言葉にする」いや、「言葉を持つ」のがいいかな。

自分の気持ちは正直に迎え入れて離しちゃダメよね。

 

 

昨日同様、作中にはたくさん食べ物が登場します。

だって、目次がもう全部食べ物の名前なんだもの。

しかも希和が料理上手。

ジャムとかシロップって、言葉聞くだけで心躍ってホップステップジャンプよ。

 

あ、あと、アイスクリームの上に乗ったウエハースって、なんか特別。

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ハチミツ

【今日のハチミツ、あしたの私  寺地はるな】

 

ーどんな状況でも生きなきゃいけない。蜂も、人間も。

 

可愛らしくて暖かい、表紙と字に惹かれて手にとった一冊。

作中に書かれている言葉もどこか暖かくて、柔らかい。

自然豊かな描写で、読んでいると草木や花の香りが感じられそうになるくらいに。

 

仕事や結婚、過去に息詰まりを感じながら暮らす"碧(みどり)"が、実家の仕事を継ぐと決めた同棲中の彼についていくことから始まるお話。

 

そこからなんやかんやあって、養蜂の仕事をする"黒江"という男と出会い、ハチミツを通してお話が進んでいくの。

 

お話を通して感じたことは大きく二つ。

まずは「家族」についてかしら。

 

碧の家族、養蜂場を営む黒江の家族、同棲相手の安西の家族、認知症の父がいる三好さん、スナックあざみを経営するあざみさん....

 

どの家族も形としては「家族」

なんだけども、どこか複雑で繊細。

 

喋りたいけど何を喋ったらいいかわからない食卓

夜に玄関から出ていく認知症の父を見放そうかと思う多忙な仕事終わり

寄り添うことでわかる男女間の縺れ

言葉にできない「愛している」という気持ち

 

私自身の家族との関係性なども思い出してしまって、涙をグッと堪えながら読む部分も実はあったのよ🤫

碧やその他の登場人物たちの「家族」への想いも重なって...

 

大きく二つ目は「居場所」

碧が安西についてきた挙句、そこであっけなく帰る場所を失うっていうネタバレなんだけども、(それはもうえーーって感じでどうするのーーって思った)

アパートを探してくれたり、ごはんを食べさせてくれたり、

その町で出会う人たちの温かさを感じました...

 

それもある。というか、それだけではない。

 

碧自身がそこにいると決めたこと、養蜂場で勉強すると決めたこと、

あざみさんの店舗の改修やメニュー作成の手伝いをすると決めたこと、

ずっとここにいると決めたこと...

 

人の温かさや出会った運はそれもそうだと思うけども、

碧自身が決めて、碧自身が居場所を切り開いていく強さが単純にすごいと思ったの。

 

「自分の居場所があらかじめある人なんていないんだよ。自分でつくっていかないと」

 

この言葉、今の私にものすごく響きました。

ありがとう。

 

蜂蜜のように、舌に溶け込んでいくような温かいお話。

 

あ、あともう一つ。

作中に出てくるごはんたちがどれも美味しい...

いや、食べたわけではないけど、絶対に美味しいの。

 

はい、おまじない。

覚えて帰ること。

『蜂蜜をもうひと匙足せば、あなたの明日はきっと今日より良くなる。』

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公園のベンチでコーヒーを飲む幸せ

パーク・ライフ 吉田修一

 

ー忙しく巡る大都会の中の、何もしないことが許される場所

 

ある電車の中、"人違い"で話しかけてしまった女性と再会したことから始まる、

日比谷公園を舞台とした"僕"の静かな日常のお話。

 

大事件勃発!!といったことは取り分け無く、

電車に乗って、仕事をして、カフェに入って、公園でベンチに座って...

といった具合にほぼ水平面上にお話は進むのだけど、

なんていうか、その日々の風景の中でお話が進むからなのか、親近感が湧きやすい。

それも"公園”を舞台にお話が進むので、尚一層のこと。

 

僕を取り巻く友人や同僚、公園で出会う人たち、お店の店員さん、

そしてお話の要となる一人の名も知らぬ女性

 

公園のベンチに座った僕になったような気分で、気づけば出会う人物たちについて考えしまっていたの。

 

最後の女性の一言が気になって気になって...

読み終えて一息した今でも心のどこかに引っかかって、あれは一体...

 

 

もう一つの作品、「flowers」

上京した先の職場を中心に展開される青年のお話。

これも何気ない仕事を通してお話が進むのだけれども、

暴力的な面・性的な面・陰湿な面....

いわゆる、人間と呼ばれる生き物が持っている内面みたいなものが滲み出る中での人間関係を覗いているような気持ちになりました。

題名にもある通り花も多く登場し、それらが相まってよりお話に深みを増しているのかしら。

(上手く言葉で表せているかどうか...)

自分自身の底も覗かれているような、人間としての不気味さを感じた作品でした。

 

 

公園に行きたくなったので、このあたりで👋

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ワタシはピカソにはなれない

ピカソになれない私たち 一色さゆり】

 

ー美術を通して語りかけられる自分と向き合うことの大切さ

 

私の才能ってなんだろう?

そもそも才能ってなに?

本当の自分って何なんだろう...?

 

私自身もこんな風に自分と向き合う機会が一定期間あり、最近少しだけ土から顔を出すことができたかなと思い始めた時に出会った一冊。

題名と表紙のデザインに惹かれて思わず手にとりました。

 

舞台は東京美術大学。

(昨日も美術に精通する人物のお話だったので、なんだかシンクロニシティを感じるの...)

他者の力で評価されて生きる詩乃

戦略的に個性を纏う和美

何に対しても中途半端な太郎

前進に悩む望音

4人がとある教授のゼミに入る春から始まるお話。

 

私自身も悩んでいた事だからこそ4人に共通して見えるのは、

"自分"がないこと。

 

あるとか、ないとか、本当は自分は存在するものではないのかもしれないけど、

それでもそれぞれが他人だったり、過去だったり、

今の"自分"を生きていないように感じたの。

 

それが読み進むにつれて、

本人たちの葛藤だったり絶望、苦しみ、悔しさが溢れて溢れて、

溢れついた先に変化していく。

 

なんだかそのそれが、美しく思えて。

 

"作品の美しさ"と"自分の美しさ”が相まってより美しさが映えるような。

(美術の美の字も知らない私がどうも失礼いたしやす、そんな感じよ)

 

本人たちの「自分とは」という問いに奮い立たされるように、気づけば読みながら私の中の自分も改めて考えていました。

 

作中に絵画などの芸術作品も豊富に登場するので、

なんでこんなに知っていらっしゃるのかしら...

と疑問に思っていたら、最後のページに

「一色さゆり 東京芸術大学芸術学部芸術学科卒業

 .....

 現在は美術館で学芸員として勤務しながら執筆活動を続けている」

 

スゴイカタダッタ~~~

ズボンのチャック全開で電車に乗った時くらいお恥ずかしいったらありゃしない。

 

チャックを閉めて今日はこのくらいで👋

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人間

【人間 又吉直樹

 

そもそも、人間って...

 

最初にごめんなさい、順番とかすっ飛ばして目についたのがこの作品だったので、又吉さんの作品はこれが初になります。スマネェ

 

なんだろうか、この作品の読み終わりを悟ったかのように一斉にコオロギが。

もう秋なのですね🍂

 

秋のお告げに身を任せ、この作品の余韻に浸ろうと思います...

 

大まかに二つほどにまとまればいいな、(まとまるかな)

まずは作品についてよね。

 

個性、順応、天才、平凡、自律、依存、肩書き、名誉、自分、他人...

この本の中ではそれらがぐるぐると渦巻いているように感じたの。

なので色んな箇所で色んな言葉に引っかかる。

必ずどこかで触れている。

これはここと繋がって、ここはさっきのあそこと...?

クロスワードのよう。

 

『人間をやるのが下手なのではないか』

この一文には衝撃を受けました。

あァ、"やる"ものとしての捉え方か...と。

"やるもの””やらないもの"として考えた時に再度登場人物たちを見てみると、また違うものが見えてきて非常に面白い。

 

その中でもお父さんは印象的。

主人公やその他東京の登場人物たちの"人間をやる"

お父さんの"人間をやる"

正解はないのかもしれないけど、これを考えてみた時にこの本にほんのちょっぴり近づけた気がした。

 

大まかな二つ目は又吉さん。

最初にもある通り、又吉さんの作品を読んだのは初めましてですが、言葉選びが本当に素敵な方だなあと感じました。

私事ながら、ものすごく好きです。

 

散々泣き終えたような心地よい気だるさ...

踏むことのなかった犬のクソみたいな人生...

比喩表現がなんとも心に何かを残す。

 

匂い、感覚、音、見ているもの...

事細かく書かれていて、想像が膨らむのなんのって、爆発するって。

読み手に色んな想像をさせる表現力が良いなあなんていっちょ前に思って読ませていただきました。

 

素敵に言葉たちを操りつつ、人間の美しくない部分も表現しているようで。

そう考えた時にはもう、影島のように踊りだしそうになりました。

(頭の中では完全にダンシングよね)

 

「想像力と優しさが欠落したただの豚」

には個人的になりたくはないので、今日はここらで失礼...👋

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